静岡県教育委員会

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静岡県教育委員会
静岡県静岡市葵区追手町9番6号
https://www.pref.shizuoka.jp/kodomokyoiku/school/kyoiku/index.html

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取材日
2025年3月取材

静岡県では、2024年度から不登校の児童・生徒にとって新たな居場所・学びの場となるように、3Dメタバースを活用した不登校支援の取り組みを開始しました。
「しずおかバーチャルスクール」と名付けられたこの取り組みについて、静岡県教育委員会義務教育課の渡部教育主査(当時)に詳しくお話を伺いました。

定員150 名に対し、倍以上の応募と大きな反響が

▲ 静岡県教育委員会 義務教育課 指導班 渡部 彰教育主査

 3Dメタバースを活用した不登校の児童・生徒への新たな取り組みに関して、渡部氏に導入の背景をお伺いしました。「今回、ICTを活用した不登校支援に取り組むことに決めたのは、3Dメタバース上の新たな居場所に、子供たちが自宅から気軽に参加できるからというのが大きいですね。アバターを使えば顔や名前など、個人情報を公開せず活動ができ、心理的なハードルを下げられると感じたことも導入の大きな決め手でした」。
 しずおかバーチャルスクールの準備は、広報活動から始めたそうです。「まず、フリースクールなどの関係支援団体が、丁寧な周知活動にご協力くださいました。さらに、JMCにはチラシや説明動画の作成・活用を通じて、保護者や子供たちに本取り組みの魅力が伝わるよう、広報の面でもさまざまな工夫を施していただきました。2024年10月からは、翌年1月開始の試行運用の参加者を募集したところ、定員150名に対して350名を超える応募が殺到し、急きょJMCに相談して、受け入れ環境を整備しました。結果として、まず1月に150名を受け入れ、残る希望者については2月から順次参加してもらえる体制を整えることができました。」(渡部氏)。


子供たちに交流・学習・体験を通じた新しい学びの場を提供

▲ 試行運用最終日、子供たちとオンライン支援員が感謝を伝え合った「ありがとう会」

 2025年1月に試行運用を開始した「しずおかバーチャルスクール」は『交流・学習・体験』の3つに重点を置いているそうです。「まず『交流』については、子供たちがアバターを通じて、仲間やオンライン支援員とチャットやエモート機能などを使った、自由な交流の機会を大切にしました。空間内には、開放時間中ずっとオンライン支援員がいて、交流や学習のサポートなどを行っています。最初は、子供たちがうまく交流できるか心配でしたが、オンライン支援員が考案した遊びや、子供たち自身が考えた遊びをとおして、楽しそうにコミュニケーションをとる様子が見られたことは、この取り組みが少しずつ届いていると感じられる瞬間でした。特に、みんなと違うお題を持っている人を会話の中から探し出すゲーム「ワードウルフ」など、子供たちが自ら発案して交流を広げていく姿からは、独創性や想像力が自然に発揮されていました。そうした活動をきっかけに、テキストチャットからボイスチャットへと移る子も見られ、自分の思いをよりリアルに近い形で発信する経験が、自己肯定感の芽生えにつながっていくように感じています」(渡部氏)。
 『学習』・『体験』についても伺いました。「『学習』では、主要教科やプログラミングなどを学べるオンライン教材を導入し、子供たちが自分のペースで学習できるよう、学習計画の相談や質問対応を行う支援スタッフを配置しました。『体験』では、社会とのつながりを重視し、オンライン会議ツールを使ったイベントを実施しました。ファストフード店などの職場体験プログラムでは、普段は見ることのできない店舗の裏側の様子をリアルタイムで見学しながら、子供たちはチャット機能を使って、おどろいたことや疑問に思ったことを担当者に伝え、学びを深めていきました。恐竜をテーマにしたイベントや、著名人によるビデオセッションでは、自分の生き方について考える学習機会も提供しています。こうした体験を通じて、子供たちが社会とのつながりを感じ、将来の目標を描くきっかけになることを目指しています」(渡部氏)。


試行運用後の成果と本格運用スタートに向けて

▲ アバターの種類やエモート機能が充実しており、頷きやガッツポーズなどで感情を表現。
  子供が自分らしく過ごせる工夫が詰まっている

試行運用の舞台裏について、渡部氏はJMCとの連携が大きな支えだったと話します。「『しずおかバーチャルスクール』をつくるにあたり、県だけでは運用が難しい面もありましたが、JMCがハブとなり、他のパートナーとうまく調整してくれたのが心強かったですね。JMCは私たちのやりたいことや考えをくんでまとめてくれますし、積極的に提案をしてくれるので、大変助かりました」。
 JMCとの連携を通じて進めた試行運用では、子供たちの中にも前向きな変化が見られました。その中で感じた子供たちの変化や思いについて、次のように語ってくださいました。「私たちが試行運用中に意識したのは、子供たちのアクションに対して、必ず返答を行うことでした。これにより、子供たちは次第に積極的に参加し、自分の意見や希望を表現するようになったのではないかと思います。例えば、スクールが終わる際に名残惜しそうにしていたり、エモート機能の『地団駄を踏む』を使ってくれたりするなど、子供たちがこの空間を楽しみにする様子が伝わってきてうれしかったですね。また、JMCがまとめてくれたアンケートでは『再登校のきっかけになった』『笑顔が増えた』などの好意的な声が多くあり、試行運用に関しては一定の成果を収めたと思います。今後も子供たちの独創性や積極性を大事にしながら、その要望に応えられる環境を用意したいですね」(渡部氏)。
 最後に、これから3Dメタバースのような新しい不登校支援の取り組みを推進していきたい自治体に向けて、渡部氏からメッセージをいただきました。「不登校支援には、さまざまな方法や形があると思います。この『しずおかバーチャルスクール』での取り組みにおける、成果や課題を各自治体にしっかりと情報共有して、どうすれば子供たちにとってより良い不登校支援になるのかを、一緒に考えていきたいです」。